発明の効果

袋体バルブ式密閉型調圧水槽、発明の効果
図15
袋体バルブ式密閉型調圧水槽 図15

図16 調圧水槽一体型発電所
袋体バルブ式密閉型調圧水槽 図16

図17 水資源の合理的利用
袋体バルブ式密閉型調圧水槽 図17

特許公開平9-3865 公開日:1997年1月7日

本発明に係る調圧水槽を使用する場合の効果を(図15,図16,図17)を例にとって説明する。

(まえがき)日本での水力発電開発において、大規模水力発電の開発は、ほぼ終了した。エネルギーの安定供給、火力発電による環境破壊等の理由によって、中小水力発電の開発が認識されているが、開発コスト高のために開発が遅れている。また、コスト低減のために、多くの技術開発が促進され実証されている。

しかし、水力発電においては、複雑な水利権、水資源の非合理的な使用状況、河川環境維持流量の増大等により、発電に使用できる流量は、制限される傾向にある。
したがって、発電原価の低減が困難となっている。発電原価の低減には、水の合理的使用、配分による発電流量の増加、落差の増大、また、発電専用の設備に他の利水施設を組み込むことのできる、総合的計画手法が必要である。

【0016】本発明の効果を箇条書に述べる。

(イ) 袋体バルブ式密閉型調圧水槽9の設置自由度の大きさによって、導水圧力管路8のルートは自由に設定できる。また、(図17)の例に示すように、農業用パイプラインを兼用することができる。したがって、水の合理的使用を可能にする。

(ロ) (図17)の例で、発電用導水圧力管路より、水田,畑等に用水を給水すると、圧力容器内の空気圧力は低下する。よって、空気室圧力計、水位計と水車流量調整弁を連動させると、導水圧力管路末端の流量変化に追従する発電水調運転が可能である。

(ハ) 袋体バルブ1の作用によって、圧力容器5内の最大下降水位の設定は自由にできる。したがって、調圧水槽の小型化、設計標準化は可能である。そのうえに、最大定常負荷時(水車流量最大~図14参照)の水位を、袋体バルブ1が制水口止水弁座に着座している状態で定めると(設定下降水位~図1)、密閉型調圧水槽の高さを、ほぼ半減することが可能である(下降水位は無視できる)。なお、水撃圧力は袋体バルブ1によって、吸収・発散できる。

【0017】

(ニ) 流れ込み式水力発電においては、洪水時、異常渇水時には取水停止する。したがって、通常の密閉型調圧水槽では、制水口12にバルブがないために、圧力容器内の空気が流出し、維持管理が繁雑である。本発明の調圧水槽では、袋体バルブ1の作用によって空気の流出はない。よって、維持管理は容易となる。

(ホ) 既設の水力発電所を拡大再開発するときは、無圧導水路(トンネル等)を圧力導水路に変更し、上部水槽(ヘッドタンク)を本発明の袋体バルブ式密閉型調圧水槽に改造すれば、無圧導水路の空断面を活用した発電流量増加(流積断面増加)による、発電力(発電力量)の増加ができる。よって、流水ポテンシャルエネルギーの有効活用ができる。
(ヘ) 貯水式(ダム式)発電においては、有効利用水深を大きくすると、本発明以外の調圧水槽は、大型化し、工事費が上昇するが、本発明の調圧水槽は、袋体バルブ1の作用によって、発電負荷追従性を考慮した小型化が可能である。

【0018】

従来の水路の布設方法(図15参照)での既設水力発電再開発は、無圧導水路4の断面を拡大し、発電流量を増加し、並びに、水圧鉄管6を延長し、落差を大きくして発生電力量を増大する方法もある。

しかし、水圧鉄管の延長には限界がある。その理由は、水車の無拘束速度時の流量特性に依存する。フランシス水車の場合には、事故停止時に発電機負荷が急遮断されると、即座に水車の回転数が上昇し始めるが、それに伴う水車通過流量は、比速度250(Ns≦250)以下では、水車自身が水量を減少し水撃圧力を発生する。
(参考:比速度:Ns はこちらから

この現象は、水車流量調整ベーンを絞らなくても発生し、水車流量調整ベーン閉塞時間とは無関係である。また、ベルトン,ターゴインパルス等の衝動水車は、デフレクタによって、ランナーの回転とは無関係に、水圧鉄管内の流量減少を任意時間に長くできるので、水撃圧力を軽減できる(注:水撃圧力は水圧鉄管長の影響が大きい)が、比速度(Ns)が小さく発電機が大型化し、さらに、ランナーと放水面間の位置エネルギーが回収できない。

特許公報(B2)平4-6810に記載の導水圧力管路による布設方法では、ターゴインパルス、又はNs=250以上のフランシス水車を用いて、圧力管路を延長する方法もあるが、ターゴインパルス等では発電機の大型化、フランシス水車では、キャビテーション、負荷追従性、発電水調運転の問題があって、圧力管路を長くすることは難しいようである。(参考:フランシス水車はこちらから

(ト) 本発明の調圧水槽一体化発電所では、水圧鉄管長は短く、水撃圧力は無視できる。さらに、圧力容器内の空気室4の高さを増して、空気室4の容量を十分に確保すれば、導水圧力管路内の水流エネルギーを空気圧縮エネルギー(圧力エネルギー)に変換した場合の空気室4の最大圧力を下げることができる。

このことは、導水圧力管路長に対して任意の管路内最大圧力を設定することができることになる。
したがって、FRP管等の2次製品を用いることができて、標準化設計、施工を容易にする。

(チ) 調圧水槽一体型発電所10(図16)による導水圧力管路工法では、調圧水槽と発電所建屋18が同じ発電所基礎17の上にある。
さらに、構造部材を共有していることによって、材料の節約ができる。
また、調圧水槽を斜面上に設ける必要はないので、常時,地震時の安定解析、安定対策(斜面上では斜面のすべり崩壊対策を必要とする場合が多い)、施工、発電水調運転、維持管理が容易となり、工事費が低減できる。
そのうえ、発電所を地下に設ける場合には、発電所建屋を円形,卵形等の断面で築造することによって、構造安定上有利となる。

(リ) 導水圧力管路8は、自由にルート設定できることを前記に述べたのであるが、導水路縦断方向の調圧水槽設置位置について説明する。

通常の密閉型調圧水槽は、放水面12に接続して設けるほど、Thomaの安定条件より、調圧水槽安定必要断面積、容量は大きくなる。
(参考:Thomaの安定条件はこちらから

しかし、袋体バルブ式密閉型調圧水槽9においては、前記に説明したように、場合によっては、容量を半減できる。
さらに、空気室圧力を水車のガバナー(調速機)回路に取り込んでThomaの安定必要断面積を縮小すれば、一層の小型化と軽量化ができる。

その結果、発電所基礎は荷重の負担が少なくなり、また、調圧水槽と発電所建屋を一体化したために構造断面の強度は、断面形状の相乗効果によって非常に有利となる。
ゆえに、建設工事費を下げることが可能となる。

本発明の導水圧力管路式調圧水槽一体型発電所の水路布設方法は、パイプライン化水力発電とも考えることができる。

前記の効果によって、標準化、小型化、低建設費、高発電出力、大発電力量、低発電原価という経済開発が可能となり、我国のエネルギーセキュリティーとしての石油代替エネルギー開発、未開発発電水力の賦存する農山村の地域開発振興に大きく貢献することができる。

実施例はこちらから

1 取水堰
2 調整池
3 沈砂池
4 無圧導水路
5 上部水槽、サージタンク
6 水圧鉄管
7 余水路
8 導水圧力管路
9 袋体バルブ式密閉型調圧水槽
10 調圧水槽一体型発電所
11 水車
12 放水面
13 有効落差
14 無効落差
15 河川
16 発電機
17 発電所基礎
18 発電所建屋