詳細な説明ー調圧水槽

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、水力発電・農業用パイプライン等での水撃圧力の吸収,発散。また、水車・ポンプ等の負荷変化によって生ずる、流量調整ベーン開閉時間の変更を可能とする調圧水槽に関するものである。
袋体バルブ式密閉型調圧水槽-図10-図11
袋体バルブ式密閉型調圧水槽-図12-図15
【図16】
袋体バルブ式密閉型調圧水槽 図16
【図17】
袋体バルブ式密閉型調圧水槽 図17
【0002】
【従来の技術】従来の水力発電に用いられる調圧水槽は、(図11,図12,図13)に示すように、一般型調圧水槽(図11)、開放型空気制動(図12)、密閉型圧縮空気(図13)の3種類に大別できる。以下個々の特徴について述べるとともに、従来の水路布設方法についても説明する。
(イ) 一般型調圧水槽(図11)は、単動サージタンク,制水口サージタンク,差動サージタンク,水室サージタンク等の種類があるが、どれもサージタンク天端は開放されている。また、調圧水槽は導水路■の下流末端に設置することが多い。したがって、導水路■の延長が長い場合、および貯水池■利用水深が大きい場合には、全負荷遮断時、負荷急増時の最高上昇水位、最低水位が大きくなって調圧水槽高さ、断面積が増加する。さらに、調圧水槽の天端が開放されているために導水路縦断方向の設置位置の自由度が小さい。そのうえに、急斜面の地形に設けることとなって水槽の地震時安定確保対策、施工の困難等によって工事費が増大する。
(ロ) 開放型空気制動(図12)は、サージタンクの天端を鉄筋コンクリートで被い、この天井の一部に小孔を開け、この小孔をサージタンク内の空気が流出、流入する時の抵抗によってサージタンク高さを抑制する。したがって、前記の一般型に比較して調圧水槽高さを減少できるが、設置位置の自由度は一般型と同様である。
(ハ) 密閉型圧縮空気(図13)は、日本では採用されていないが、ノルウェー,アメリカで用いられている。設置位置の自由度は大きく導水路■のルートには関係しない。(図14)を参照して密閉型圧縮空気サージタンクの概要を述べる。定常負荷時から全負荷遮断をすると導水圧力管路内の流水は、圧力容器内に流入し容器内の水位は上昇する。よって、空気室内の空気は圧縮される。また、水車から発生する水撃圧力は水圧鉄管から制水口を通って、空気室で発散、反射する。定常負荷時より負荷を急増すると最初に圧力容器内に存在する水で水車の流量補給をして発電出力を増加する。そのとき、圧力容器内の空気室圧力は定常負荷時の圧力より下がる。したがって、貯水池から圧力容器の間に圧力差(落差)が生じ、導水圧力管路の流速(流量)は増大する。この現象は、水理学の非定常流れであって導水圧力管路の流量と水車が要求する流量とが一致したときに、圧力容器内の水位降下が停止する(最低下降水位)。ゆえに、導水圧力管路長が長いほど、及び圧力容器内の圧力低下が小さい場合ほど下降水位が大きくなる。よって、調圧水槽の高さが増大する。制水口は、開放されているために下降水位の制御は制水口断面積の縮小による、制水口通過流量減少によってなされているが、制水口断面積を過度に縮小すると水撃圧力の吸収,発散が確実とならない場合が生ずる。圧力容器内の万一の空気漏れに備えて空気量供給のエアコンプレッサーを備える必要があるが、この供給空気量のコントロールは、水位計測の結果からの空気量と圧力の積とが一定(P・V=一定)となるように自動制御されている。
(ニ) 従来の水路式中小水力発電(図15参照)では、取水堰1から発電所の直上部に設置する上部水槽5(サージタンク)に至る間に、1/1000程度の勾配をもって無圧導水路4を開渠、あるいはトンネル等の工法によって布設する。さらに、上部水槽5の越流水を放流する余水路7を設け、上部水槽5から直下の水車までの間に水圧鉄管6を設けて、流水を導く方法で水路を布設していた。したがって、上部水槽5の水位と放水面12との水位の間で所要の落差を得ていた。この場合、沈砂池3の水位と上部水槽5との間に、発電に寄与しない無効落差14を生じて有効落差13を減少させて、発電出力と発生電力量を減少させてきた。また、農業用水等のように、季節的に生ずる用水を無圧導水路4より補給し、使用しない場合には発電流量補給に用いて発電量増加をするという積極的な計画発想も少なかった。(図17参照~水資源の合理的利用)

【0003】
【発明が解決しようとする課題】解決しようとする課題を(図11,図12,図13,図15)を参照し箇条書に説明する。
(イ) 一般型(図11)、開放型空気制動調圧水槽(図12)の場合には、調圧水槽設置位置(▲ロ▼,▲ハ▼)によって、導水路■のルートが限定される。導水路■のルートと調圧水槽位置(▲ロ▼,▲ハ▼)との関連が、建設工事費に大きく影響する。したがって、両方の調和を考慮した設計はは高度の技術と労力を要し設計標準化も難しい。さらに、水圧鉄管■は調圧水槽の構造上によって斜面上に設けることになる。斜面上に水圧鉄管■を施工することは、高度の土木施工技術を必要とし、かつ、施工仮設備,人力施工等によって工事費が大きくなる傾向がある。そのうえに、水圧鉄管を延長して落差を確保することは、発電負荷の追従性、水撃圧力(水撃圧力の計算には水圧鉄管長の影響が大である)の問題によって限界がある。そのために、放水路■を設けて落差を増加するが、場合によっては放水路調圧水槽を必要とするし、発電施設全体の構造が複雑となり、施工、設計の標準化はさらに難しくなる。
(ロ) 密閉型圧縮空気調圧水槽(図13)の場合には、調圧水槽設置位置▲ニ▼と導水路■との関連は考慮する必要はないので、調圧水槽▲ニ▼と導水路■の設計は単独ですることができる。しかし、制水口が常に開放されているために、最低下降水位の設定には制水口断面積、流量係数の決定(水理実験を必要とする場合もある)、発電運転状態(回転体の慣性方程式等)を考慮した、一次元化された運転方程式を、数値計算、図式計算によって近似解析するが、この解析結果の判断には高度の工学的判断が必要であって、設計の標準化は難しいと考えられる。さらに、制水口断面積を縮小しても最低下降水位の低減には限度があって、調圧水槽の小型化によりコスト低下にも限界がある。
(ハ) 水路の布設方法(図15参照)については、導水路から農業用水等を補給し、用水が不必要のときは発電出力増加のために、その用水を用いる。さらに、農業用水路をパイプライン化できるように導水路を計画し、かつ、水の合理的使用ができる発電施設計画を可能にする(図17参照)。そのうえに、既設発電所の再開発の自由度(簡易)を拡げ、既設発電所の設備改良、増設によって発電出力増加(発生電力量増大)が容易に達成でき、再開発コストが低減できる方法を開発する。
(ニ) 上記のように、一般型、開放型、密閉型調圧水槽によるものでは、小型化、設計施工標準化によるコスト削減には、不十分な点が多くある。
本発明が解決しようとする課題は、調圧水槽と導水路との関連をなくし、調圧水槽は自由に位置の設定ができるようにする(図17参照)。また、最低下降水位を自由に決めることができて、設計に高度の技術、判断を必要としないようにし、小型化、標準化、維持管理が容易で、かつ、発電所建屋の一部をかねて、発電施設の総合的なコスト低減を可能にする調圧水槽を提供することにある。

【0004】
【課題を解決するための手段】本発明に係る調圧水槽は、以上のような課題を解決したもので、次のようなものである。その構成を(図1,図2,図3,図4,図10,図15,図16,図17)を例にあげて説明する。
(イ) (図1,図2)の例では、圧力容器5の内部に袋体バルブ1を設け、袋体バルブ1から圧力容器5の外部につながる、袋体バルブ1のガス圧入排出装置を袋体バルブ1から圧力容器5に接続した浮力開閉袋体バルブ式密閉型調圧水槽。ガス圧入排出装置は、たわみ性ホース17、機械式(図7参照)、又は機械式とたわみ性ホースを組合せて用いる方法もある。たわみ性ホースは、合成樹脂・ゴム等の弾性体で製作し、できるかぎりしなやかに曲がるような構造とする(例:自動車のブレーキホース,建設機械の油圧ホース等)。袋体バルブは、ゴム,合成樹脂、または合成樹脂,鋼繊維とゴム等で袋状に作る(例;熱気球,自動車タイヤのゴムチューブ等)。その袋状の中に圧縮ガスを圧入すれば、袋体バルブ1ができる。
(ロ) 袋体バルブ1は、支柱16に設けた袋体バルブ案内棒15に取り付ける(図10参照)。その案内棒の機能は、袋体バルブ1と制水口止水弁座11との接触面を定位置に保つ役割をする。袋体バルブストッパー2は、圧力容器内5の水位3が上昇するとき、袋体バルブ1の離脱防止をする。圧力容器5の製作材料は、鋼材,FRP,鉄筋コンクリートを単独または組合せて築造する。
(ハ) 圧力容器内の水位3の計測は、ガラス板(管)水面計6-1で測るが、水位の計測方法には、超音波水位計(図3参照)、差圧式水位計(図5)、機械式水位計(図7,図9)等とがあるので、それらの方法を用いてもよい。
(ニ) 空気圧入排出管7、空気室圧力計8、空気コンプレッサー9は、空気室4の空気圧力を調整、または圧入,排出するために装着する。空気室圧力計はブルドン管等を用いて、水位計測装置と組合せて、空気室4の空気体積(V)と空気圧力(P)との管理(P・Vx=一定)をする。
(ホ) 制水口止水弁座11は、圧力容器内の水位3が設定下降水位14の位置にきたとき、袋体バルブ1と密着し、制水口12からの漏水を防止するために設置する。製作材料は弾性体とし、袋体バルブ1との接触部分との滑りを考慮する。

【0005】(ヘ) (図3,図4)の例で、上記に記述のないものについて述べる。圧力容器5の内部に袋体バルブ1を設け、空気室4の圧縮空気を袋体バルブ1に送気できる、空気連絡通路を袋体バルブ1から空気室4に接続した浮力開閉袋体バルブ式密閉型調圧水槽。袋体バルブ1とたわみ性ホース17は、連絡パイプ16に接続し、空気室4と空気連絡通路を構成する。その機能は、圧力容器5の水位が上昇すると空気室4の空気圧力は上昇し、空気連絡通路を通って袋体バルブ1に流入し、空気室圧力と同じ圧力になる。したがって、袋体バルブ1は膨張,縮小をしない。
(ト) 袋体バルブ1は、圧力容器5の天井から制水口12側方上面に達する、袋体バルブ案内棒15に取り付ける。その役割は前記と同様である。また、袋体バルブストッパー2が設けてないのは、たわみ性ホース17と袋体バルブ1の接続する位置を工夫することによって、圧力容器天井が袋体バルブストッパーの役目をする。
(チ) 圧力容器5の水位3の計測は、超音波水位計6で測るが、前記と同様に、差圧式水位計(図5)、機械式水位計(図7,図9)等とがあるので、それらを用いることもできる。超音波水位計6は、圧力容器5内に送受波器2を設置し、ケーブル6aで変換器に送信し、変換器からアナログ、又はデジタル出力をするが、空気室圧力計8、水車流量調整装置(電動サーボ等)と変換器出力とを電気制御すれば、調圧水槽の水位調整発電運転が可能となる。
(リ) 圧力容器5内の水位3と空気室4の圧力管理については、熱力学法則(P・Vx=一定)を用いる。空気室圧力は、空気圧入排出管7と空気コンプレッサー9との間に、空気室圧力計8を取り付けて計測する。そして、水位計と組合せて、熱力学法則(断熱変化,等温変化,P・Vx=一定)を活用して浮力開閉袋体バルブ式密閉型調圧水槽の動作管理をする。

【0006】(ヌ) 水路の布設方法(図15,図16,図17参照)は、中小水力発電施設の取水堰1に設けた取水口から、この取水口の低位にある前記の請求項1、又は請求項2に記載の調圧水槽を用いた調圧水槽一体型発電所10までを、圧力管で直結した導水圧力管路8による水路の布設方法。(図15参照)して、無圧導水路4を導水圧力管路8にする。導水圧力管路8の築造材料は、FRP複合管,ダクタイル鋳鉄管,鉄筋コンクリート等で作る。上部水槽5(サージタンク)は、袋体バルブ式密閉型調圧水槽に変更する。その設置位置は導水圧力管路8の末端に設ける。さらに、余水路7は、水路布設上より不必要であるから省略する。発電所は、調圧水槽一体型発電所10(図16)とする。その構成は、袋体バルブ式密閉型調圧水槽9の側方から、発電所建屋18を連続して構築する(注:発電建屋内部に袋体バルブ式調圧水槽を設けるの意味)。発電所建屋断面は、卵形、又は折線近似曲線とする。その建屋内部に、調圧水槽水位調整運転装置,水圧鉄管,水車,発電機等を設置し、水位調整発電運転を実施する。

【0007】
【作用】次に本発明の作用を述べる。(図1,図2参照)
(イ) 圧力容器5の内部に浮力を活用した袋体バルブ1を設け、水位3の上昇時(水車流量減少~流量調整弁開塞)には、袋体バルブ1が上に移動し、水撃圧力を空気室4で吸収、発散する。
(ロ) 水位下降時(水車流量増大~制水口流量増加)には、設計で考えた設定下降水位14の位置に、袋体バルブ1が移動すると、制水口止水弁座11と袋体バルブ1が密着し、調圧水槽から水車への流量補給はなくなり、水位下降は停止する。

【0008】(ハ) 発電出力増大時(水車流量増加)には、設定下降水位14に袋体バルブ1が近づくと、制水口12との間の断面積が減少し、水車流量は減る。さらに、袋体バルブ1が制水口止水弁座11に着座すると、流量補給は限りなくゼロに近い値となる。袋体バルブ1と止水弁座との間には、製作上微小な隙間が存在するが、袋体バルブ1が超弾性体であることによって変形し、止水弁座と密着することで実用上無視できる止水性能を発揮する。
(ニ) 定常発電出力から出力減少時(水車流量減少)の間では、定常発電出力時において、袋体バルブ1は浮力の作用によって、制水口弁座11と十分の距離を保っている。したがって、導水圧力管路13から圧力容器5内への水流入と水撃圧力伝播は阻害されない。発電出力減少(水車流量減少)とともに、水撃圧力が水車より発生する。その水撃圧力は、水圧鉄管10を通過し制水口12を通り、圧力容器5の空気室4で発散・反射する。また、導水圧力管路13内の水流のもつ運動エネルギーは、制水口12より圧力容器5に流入し、圧力容器内の空気室4の空気体積(V)を変化させ、空気圧縮エネルギー(圧力エネルギー)に変換される。よって、空気室4の圧力は上昇するが、その圧力上昇は、水撃圧力に比較すれば非常に小さな値となる(注:空気室体積Vに依存する)。また、密閉型調圧水槽の設置自由度の大きさにより、水車付近に水槽を設ける場合には、水圧鉄管長が短くなって水撃圧力は無視できる非常に小さな値となる(注:水撃圧力計算の急閉塞時間条件が非常に小さいことによる)。ゆえに、水車の設計を容易にすると考えられる。
(ホ) 発電出力急増中の急遮断の場合には、袋体バルブ1は、制水口止水弁座11に着座していることもあるが、この状態は、通常の発電運転では発生しないと考えられる。なお、袋体バルブ1が着座していても、袋体バルブ1の構造上より水撃圧力は、袋体バルブ1を通り空気室4で発散するか、袋体で吸収できる。その理由は、袋体バルブ1には、圧縮ガス(例;空気)が密閉もしくは充満していることによって、圧力容器内の空気室4と同じ機能をすることによる。
以上のごとく、下降水位制御と制水口12からの水車流量補給を、実用上完全に断ち、さらに、袋体バルブ1でも水撃圧力を吸収・発散できる構造としたことを特徴とする。

【0009】(ヘ) 水路の布設方法(図15,図16,図17)については、余水路7、斜面上の上部水槽5(ヘッドタンク)を省略し、調圧水槽一体型発電所10とする。その結果、密閉型調圧水槽は斜面上密閉型サージタンクより断面積、容量が大きくなるが(Thomaの安定条件~安定断面積によって)、袋体バルブ1の下降水位制御効果で、サージタンクの高さを縮小することができる。したがって、発電所建屋18と袋体バルブ密閉型調圧水槽を一体化し、もしくは発電所建屋18内に設置することができる。導水圧力管路8から農業用水を補給すれば、袋体バルブ式密閉型調圧水槽9内の空気室4の圧力が低下する。よって、空気圧力計8、水位計、水車流量調整弁を連動制御すると、用水補給に応じた水位調整発電運転ができる。
(ト) 無圧導水路4(図15)で水路を構成する場合には、その勾配に相当する無効落差14が流量の大小に関係なく生ずるが、導水圧力管路8で水路を構成する場合には生ずることなく有効落差13を得る。また、水路を圧力管路で構成することにより、一定の管内通水断面積を有する圧力管路は、発電使用水量の変化に比例して、管内の通水量が変化する。その通水量の変化を管内流速に変換することによって、河川流量の増減に伴う発電取水量変化に対応できる。したがって、河川流水のポテンシャルエネルギーの有効活用ができる。